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サークル「デュオメトルスフェロトゥールビヨン」のブログです。
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 十一月二日 米澤穂信講演会in中央大学
 こんにちは。urlです。
 中央大学の米澤穂信先生の講演会に行ってきました。レポートです。
 長いかもしれない。
 まず、講演会前の「サイン会整理券争奪戦」がすごかった。「50人」という人数は一橋大学の講演会を経験している身としては「絶対にえらいことになるな」と思っていたのだけれど、えらいことどころじゃなかったのです。
 40分ほど前に会場前の下見に行ったところ、集まっている人のあまりの多さに悪寒が走りました。「これはまずい」とツイッターで落ち合った人たちと話しつつ、会場前のいくつかの広場で待機していたんですが、私達がいた1つの広場だけで40人くらいはいたと思います。
 定員が急遽50人から100人になったというアナウンスはツイッター上でありましたが、それでも「受付開始しまーす」という言葉と同時に、会場前どっと人がおしよせて、長い長い行列ができました(それだけで定員割れしたかどうかは不明だけど、とんでもない人出でした)。
 この時列が折り返していたため、振り返ると列の長さがよく分かる位置にいたのですが、そこでボソッと「後ろ向きになっちゃだめだ」とつぶやいたところ、紅さんが「そうだね、振り返ると絶望しちゃう」と仰っていました。いやあの、物理的なことを言ったんじゃないです。気持ち的なことを言ったんです。
 なんとか整理券をゲットして、四人で並んで座ります。時間が経つにつれて席がどんどん埋まっていき、「すみません、みなさん机や椅子の上に荷物を置かないで下さい!」という注意が出るほど会場は一杯になりました。広さとしては一橋大学の時の講堂の二倍かそれ以上くらいあったと思うのですが、それをほぼ満席にしてしまうほどの人出でした。すげえ。そしていよいよ2時になります。
 さあ、始まるザマスよ。

拍手[9回]

 まずは文芸会さんからの挨拶と、米澤先生の簡単な紹介です。講演会、休憩、質疑応答という順番で進むとのこと。
「それでは米澤先生、お願いします」
 という言葉の後、一瞬沈黙が生まれました。壇上に出入り口らしきものはあるのですが、そこから出てくる気配がないのです。すると、なにやら皆さんの視線が右後方に向いていました。
 って、米澤先生、すでに視聴席の後ろの方にいた!!
 会場が広いので気づきませんでした。なるほど、「壇上の扉らしきものから出てくる」とは一言も言っていない。米澤先生は白いシャツ、黒に黄色の網目模様が入ったネクタイに、薄いベージュのベスト、上に黒いジャケット、下に限りなく黒に近い紺のジーンズ(!?)でした。例によって以下から私見をかなりカットします。それと、かなり聞きそびれたところがあるので誰か情報プリーズ。


※米澤先生は常に丁寧語を使っておられましたが、ここでは細かいところまでは覚えていないため丁寧語を使っていません。ご了承下さい。

・講演会というのはだいたい質問から始まるのだけど、今回はそれがない。一人でやれというのは行き届かないところもあると思うが、よろしくお願いします。
・いろいろ考えたのだけれど、「創作講座」というテクニカルな話をしても面白いか不安なので、各作品を振り返って多面的に行こうと思う。重複は簡便な!
・「お話」は物心付く前、妹の寝物語に作っていた。7歳くらいだったと思う。「巨人」「風車」「風に飛ばされた帽子」というキーワードが頭に残っている。考える時間は一時間以上の通学路を俯いて考えて作っていた。今歩いてみると一時間かかるので、当時集団登校だったから本当は一時間半くらいかかっていたと思う。子供が作る話なので材料が乏しかった。「忍者の話」があった気がする(忍者が何かを持ち帰ってくる話、と仰っていたんですが、詳細忘れました)。
・そういう創作活動をしていることを家族は知らなかった。当時長谷川町子やさくらももこといった四コマ漫画を見て、母が「面白いね。でもなんだかかわいそう。この人達は多分、どういったことが起こっても、毎日『どうしたら四コマになるか』を考えている。それはかなしい」と言っていたのを聞いて、「それは怖い、いやだ」と思っていた。まさか自分がこうなるとは……(会場笑)。
 米澤先生、ここで水を飲む。ハンカチは赤と薄いベージュの模様。
・ぼんやり歩いていたので側溝に落ちたり電柱や車にぶつかったりした。「お前は何をやっているんだ」とよく言われた。一番とんでもなかったのは毎年凍る池に乗って大丈夫だと思ってジャンプしたこと。もちろん沈んで死ぬかと思った(会場笑)。
・中学生高校生頃には母の四コマの話も忘れて「自分はお話を作って生きていくのではないか」ということを確信。ルーズリーフに四年書けて長編を書いた。契機は1996年、ネットが普及し色々な人が小説を書いて発表していた。テキストサイト全盛期で、書店に行くと「あ、この人見たことある。この人もだ」ということが今もある。
・大学2年から小説にhtmlタグを打ちつつ小説を書いていた。とりあえず長編を書き通してみたが、それを書いて「トレーニングをしなきゃ」と思いショートショートを40日間連続で書いた。このトレーニングのおかげで、うまくいえないが、「思っていることを文章にする回路」のようなものを構築できたのではないかと思う。当時の者は習作なので見せられないが、この時に書いたものが後に「11人のサト」で使われることに。
 水休憩。外から聞こえる音楽に「これ何の音楽でしょうね?」と会場の緊張を解く、その一。
・どういうわけか当時の作品はSFがかっていたりアクションものだったりした(ここでその作品のあらすじを説明するもメモが追いつきませんでした)。今とは全く関係ないですね(会場笑)。
・大学3年からミステリを読むようになってきた。今まで文章が理に傾いていたので、ミステリに合っていたのかもしれない。フィーリイングではなく言葉で定義する文章だった(この言葉が米澤先生の文章にかかっているのか、ミステリにかかっているのか不明です。すみません)。
・3年後半になって日常の謎を書き始めて、4年で氷菓を書いていた。しかし卒論があるので卒業までに書くことができず、一度挑戦したいと思っていた(この言葉、もう少し具体的だったんですが完璧なメモがとれませんでした)ため、「二年限り」という制約を設けて書店バイトを始める。ところが半年ほどで受賞の連絡が届いたため、結果として覚悟がなんだか空回り。
・その後も書店員をしながら書き続ける。店長に「他の店員に、これは私の本だとは言わないでください」と言ったところ「うん分かった」と言われたのだが、「氷菓」の発売日に少年ジャンプとかマガジンが並ぶ棚にズラーッと「氷菓」が並んでいて、挙句の果てには「この人が書きました!」というポップまであった。「分かった」とはなんだったのか。
・売上が気になると言えば嘘になるので売上げデータを見ようと営業用データを見る振りしてこっそりチェックしようとしたが、あやうくフリーズしかけて焦った。
 水を飲む。
・スニーカーミステリ倶楽部は、「少年少女に読んでもらいたい」という、今で言うなれば講談社のミステリランド的な志だったのだと思う。
(三つのアンソロジー
「名探偵はここにいる」太田忠司,鯨統一郎,西澤保彦,愛川晶
「殺人鬼の放課後」恩田陸,新津きよみ,小林泰三,乙一
「密室レシピ」折原一,柴田よしき,霞流一,泡坂妻夫
 の作者を全て読み上げる)
・この装丁スティーブン・キングでお馴染みのあの人のなんですよ! 不気味!(褒め言葉)
・こうして見てみると堂々たるラインナップで、こういう本の作り方・ラインナップはミステリランドっぽかった(すみませんここらへんうろおぼえです)。
・しかし、あまりこのレーベルはふるわなかった。なぜか。「煙の殺意」は表題作にもなって犬まっしぐら的な(本当にこう言っていました)アンソロなんだけど、売上げデータを見る限り振るわなかった。当時の印象としては、「買って欲しいのは少年少女たちだったんだけど、買う年代は上の世代」。本来ならあれらは一般の棚に置くべきものだった。しかし、問屋からは「スニーカー文庫」として送られてきて、また棚担当がライトノベルとミステリでは棚が違うため持っていけなかった、というのが原因として考えられる。
・そういうことが積み重なってスニーカーミステリ倶楽部は中止に。「さよなら妖精」はレーベルごとなくなったので出せなくなった。
・この時「商業作家としては無理だろう」と思って就職活動をしていたが、その中でも「お話を書いていく」という思いは変わっていなかった。なんでだろうと思う。自己顕示欲はなかったと思うのだけれど、なぜやめなかったのかわからない。
・書いていて楽しいことはあんまりなく、「なんとか延ばしてもらえないか」とか(会場苦笑)そういうことばかり考えている。ああ、やっぱり子供の頃「怖い」と思った人になっている……。
・そんなこんなで休眠状態になっていたが、創元社の編集者さんが「愚者面白かったのでなんか書いて下さい!」とメールフォームから接触してきた。「詐欺じゃないのか?」と思ったが(会場笑)電話などを重ねていくうちに本物だと安心した。
・自分としては頑張ったが振るわなかったので自信がなかったのだけれど、「さよなら妖精(古典部版)」を見せたらびっくりするくらい早く「これは世に出さないといけない小説です」と言われた。
・本来なら「さよなら妖精」は角川さんがうちのです、といえる話だったので、3社面談を飯田橋の地下一階でやった。
・その中で、角川の方が「自分の力では米澤穂信を世に出せなかったけど、米澤穂信はいい作家だから世に出してやってくれ」と言ってびっくりした。
・帰り道かどうか忘れたが、その後「どうして私がいいものを書けると仰ったんですか。数字が振るったわけじゃないのに」と言うと、「文体だ」と即答された。「君にしか書けない文体がある。僕はミステリは詳しくないからその方面については言えないけど、文章についてなら分かる。だから言った」と言われた。
・この次から春期限定いちごタルト事件、クドリャフカの順番と出て行く。
・編集者というのはタイプが違う。ボトルネックの時は、こちらが「どういうものなら書いていい?」と聞いたら「ぼくの好きそうなものを!」と言われた。初対面なのにわかるか! その後プロットが完成すると「よいと思います。ただ、僕がこういうのが好きだと思われているのがショックでした」と言われた……。だったら先に言ってくれよお!(会場笑)
・鮎川哲也賞のパーティで、「アイデアありますか?」と聞かれた時、どういうわけか「インシテミル」のプロットを印刷したものをポケットに突っ込んで持っていた。それを見せると「いいと思います」と話が進んでいった。
・「インシテミル」は映画「スクリーム」みたいなテイストで書きたかった。ミステリの内的なお約束をふまえた小説を、外部から見たら?
・そろそろ種を割るけど、「時給11万2千円」は逆算ではない。吉祥寺で「深夜・時給1120円あります」という求人を見たから。50円単位ではなく10円単位、30円単位でいくとは好きだ(会場笑)。
・編集者のディレクションについて。「ボトルネック」を見せたら「ここもう少しねえ……」という編集さんがいるのだけれど、なにがどうもう少しなのか皆目分からない。しかし、その編集さんが「もう少し」というところは確実に「そこは自分でも確かに至らなかった」というところばかりだった。
・具体的に突っ込んでくる編集さんもいる。折れた竜骨の途中の謎はすっごい力技ですますつもりだったのだけれど、編集さんが「君は何も分かっていない! 古びた塔がある! 呪われた囚人がいる! どうしてカーじゃないんだ!」と。
・編集者には何種類かいて、
 1.文章について直せる人、
 2.小説についての弱点が見える人、
 3,全体を通してその小説に「どういう強みがあるのか」を言葉にできる人。
 ふたつめは自分ではなかなか気づけず、三つ目はなかなか本人に言わない。でも他人には言う。「褒めてよ!」と思うことも……。
・昨日飯田橋で鮎川哲也賞のパーティーにお招きいただき、選評を言いました(以後米澤先生がすごく饒舌になられたので、かなり不正確か抜けているところがあります。ご容赦を)。
・ミステリとしてのトリックやロジックはもちろん筋肉を鍛えるような努力が必要。だけど、トリックはかならず全てが大物になるわけではない。そのトリックを面白くするのは文章の力。
・泡坂妻夫は洒脱。熱が入っているシーンが殆ど無い。思い出せてひとつかふたつ。文章が枯れているとも言えるのに、登場人物たちの気持ちが分かってしまう。
(※この文章、文字だけで見るとなんだか褒めていないように見えますが、すごく大好きなことが伝わってくるお話でした。誰か細部を保管してくれると嬉しいです。ってかこのサイトに来てる人はよねぽが泡坂妻夫大好きだって知ってるからいいよね)
・連城三紀彦は本人が演劇畑出身とあってビジュアル面が強い。(連城三紀彦の文章をいくつか抜粋)絵になる場面が多い。
・山田風太郎はとらえどころがない。「ない」ってじゃあ挙げるなよと言われそうなので捉えようとするけど、情念と諦念が凝り固まっている。どういうことなのか……。
・さて、これらの作家の「文」はどこから出てくるのか。編集さんと「時代物もいいよね」と話していた時、「そういう状況に置かれた人間の倫理を見たい」と言われた。その作家にとって、「どういう考えが筋が通っているか」「何を悲しみを持って受け入れなければならないか」とか、そういうことが文章になっている。いい文章というのは物事をどう思っているのかを磨けば出てくる。
 ここで休憩。米澤先生目を「><」にして疲れたポーズ。

 休憩が終わり、質疑応答に入ります。
「なんでも質問していいですよ」と米澤先生が前置き。
 勿論私は一番最初に手を挙げました。質疑応答はなあ! 一番最初に手を挙げられるかで「質問できるかできないか」が決まるんだよォ!
 私がバッと手を挙げると、米澤先生が「はははっ!」とお笑いに。講演会で一番に手を挙げたり「それは異常気象です!」と言った実績は伊達ではない。やったぜ。
Q,「軽い雨」や「黒い網」で土着性は絡まってきますか?
A,一作目から連作短編として大きなつながりがあるので答えられないです。
 おっ、悪くないヒット。
Q,スニーカーミステリ倶楽部は十代に方に届いていないと仰っていましたが、米澤先生ならどう届けますか?
A,フェアを組んでみるとか、ポップを作ってみることとかはあるけど、狙って作品を作ることはやっていないしできない。
Q,「913」「ロックオンロッカー」のシリーズ名は?
A,うーん。連作短編としてはできているんですけども、もう二作目で図書委員関係ないし困った……。「儚い羊達の祝宴」みたいに本ができたらまとまるんじゃ。
Q,「長い休日」について、
 1,米澤先生はすごく理性的に文章を書かれていると思うのですが、奉太郎とえるはくっついたらいいと思う?
 2,萌えるキャラは?
A,1,どう考えても答えられないでしょ!(会場笑)
  「くっつくわけない」とも「大丈夫ですよ」とも言えません。
  古典部版「さよなら妖精」のラストシーンでは、折木が一度省エネを振り捨てる形でつながる(ここ、未読の方を考慮してすごくあいまいな表現になってわけわからないメモになってました)。クドリャフカで別の世界になった感じ。
 2,キャラクターとは99%は距離を置くが、どの登場人物にも何か行を入れたい。五行とか1ページとか。これを書くための99%。
  要するに、皆可愛い。
Q,ラストに二重にも三重にも意味がとれるものがあるけど、それに対するこだわりは?
A,ダブルミーニングが大好き。あんまり露骨にはしたくない。小説としての位置を保つために距離はとる。「秋期限定栗きんとん事件」で栗きんとんとマロングラッセの例えを出したけど、はじめは暗喩がまったくなくレシピだけだったので編集さんに「なんじゃこりゃ」と言われた。行き過ぎると何がなんだかわからなくなるので一歩引く。
 ここで質問が次に移る際、米澤先生が窓の外からの音楽を聞いて「曲名が思い出せそうで思い出せないですね」と言うと、視聴席からタイトルが。残念ながら聞きそびれました。
Q,米澤先生のツイートを見ているとプリンターに対する情愛が感じられます。
A,幾多の戦場をくぐりぬけてきた戦友です。一緒に戦っていきたい……というのは嘘で(会場笑)、うん、買い換えられれば明日にでも……。
Q,高山での生きびな祭りについて、お祭りを今見たらどう思う?
A,生きびな祭りは結構成長するまで知らなかった。今まで育ってきた町で「自分はこんなものを見てきた」ということが言えなかったので、今は引っ越す度に色々見ることにしている。アニメ化で多くの人が来てくれて、楽しかったし嬉しかった。
 次の質問へのマイク移動中、「友人に野性時代頼まれてるんですけど、手に入らないんですよね」oh,原作者ですら……。
Q,登場人物の個性的な名前について。
A,「親がこういう思いをもってつけた名前」というのをいつも考えている。
 メインキャラであるのを名前で分かるよう意識している。ダブルミーニングはごく一部。山荘秘聞は全員ジョーク。
Q,本屋です! ポップ書こうと思うんですが一言ください!
A,「何か一言」ってすごい苦手なんですよ……。本屋寄ったついでによく聞かれるんですけど、30分くらいかたまっちゃうんで、すいませんパスで。
Q,話を作ることについて何か(すみません具体的な質問忘れました)。
A,三つのアプローチがある。
 1,事件、トリックは何なのか。
 2,どういう世界で起きているのか(高校生の世界なのか、弁護士の世界なのか)。
 3,登場人物の内的な問題。
 謎と事件の同時解決(ってメモってあるけど、ちょっと意味わかんないです。しかしこれは他のインタビューとかでよく書かれていることなので割愛します。すみません)
Q,ライフワーク的な名物探偵を書かれることはないんですか?
A,うーん(熟考)。これは辻真先先生のスーパーとポテトみたいな。あれは青春三部作まであると思ったらライフワークになっていて……自分は現在は色々あるけど「こういうシリーズ探偵として長く続けていく」ことはない(これもちょっとメモが意味不明でした。すみません)。
Q,国語の教師やってます! 高校生に米澤先生の作品を勧めるとしたらどれでしょう。
A,大丈夫、多分みんな強い子です。
Q,もしかしてさよなら妖精!?
A,さよなら妖精でいいかなというか、やっぱり好みの問題なので。一冊おすすめするならそうですね、生徒さんが本好きなら追想五断章。
Q,以前サイトの「新刊情報」に載っていた「望蜀会の野望」と「流されないで」が消えているんですが。
A,……はい。一言で言うなら、ビジネスなので色々……。流されないでは、なかなか「犬はどこだの続きを!」という話が出てこない。
Q,読み聞かせのボランティアをやっているんですが、米澤先生の作品はよく説明の文章についておかしいと言われます。だれか上手い読み方でオススメの方は。
A,一瞬「音読に適さない」と言われたのかと思いました。すみません、音読についての知識はないです。
Q,インシテミルの次はある?
A,インシテミルはミステリの内的なお約束があるので、あれのようなジョークを二回繰り返すのはどうかと。次に書くとしたらジョークではないものだけれど、今はない。
Q,登場人物ってどう設定している?
A,主要な人物については心理テストを続ける。「お前はどういう人間だ」を20項目くらい作ったあとじっくり考え始めて、30項目くらいになると輪郭が見えてくる。
Q,「中学生、高校生からお話を作って生きていくのではないか」と考えていたとのことだけど、それと文学部に入ったのは関係している?
A,関係してないです。当時ユーゴスラヴィアに興味があった。何度見ても理解ができず、「なぜ別れたのか」「どうして一緒になったのか」が知りたかった。
Q,「長い休日」で奉太郎の休日に関して供恵が色々知っているが、これと愚者との関連は?
A,実はシリーズ初期、愚者以前からプロットがあったので、供恵はもちろん色々と知っていた。これ以降は作品の中で。
Q,あるインタビューで「自分の能力の一歩上を目指して執筆する」「『乱れからくり』のような話を書きたい」と仰っていたが、この二つを合わせるとどのくらいかかるか、またどのようなステップを踏めばその境地にたどり着けるか。
A,「乱れからくり」に「似た話」ではなく、「乱れからくり」のような「贅沢な話」が書きたい。「折れた竜骨」ではデーン人の伝説など、贅沢にしたつもりだったが、「乱れからくり」くらいてんこもりのすると今の自分の力量では1500枚では収まらない。ミステリとして構成するなら1100枚くらいにしないと無理だが、「乱れからくり」だと1000枚にする技術が必要なので、その技術を磨く必要がある。
Q,「千反田える」という名前について。
A,「える」の謎を古典部版「さよなら妖精」で書いた。「える」に限っては出発点は「目を引くような名前に」だった。
Q,本格ミステリにどのような視点を持っている?
A,一言で言うと「美意識」。自分で書いているとアンフェアなものが書けない。「本格の魂」とか好き。一方で「道具立て」のジャンル。「館にぶち込んでなんぼだろ!」と思うこともある。でも「自分の書きたい話になっているか」が関わってくることが多いので、「最初から本格にしよう!」と思わないとなかなかならない。
Q,米澤先生のキャラは自重や慎みを信条として持っていることが多いけど、禁じ手としてるものは?
A,……この質問はいずれ自分を自縛しそうですね……(海上笑)。ミステリでは「ここでこの情報を開示する」といった順番を考えなきゃいけない。話の流れで出せない場合、「質問に答えられるシチュエーション」がないとできない。「どういう状況なら話せるか」が出発点。
Q,「六の宮の姫君」を読んで、北村薫は大学の卒論を小説にしたわけだけど、「さよなら妖精」もそうですよね。北村薫を意識した?
A,「卒論を題材にした」っていうのはちょっと意識したけど、「重大な興味が小説になった」の方が大きい。
Q,一人称が謎を推理する話が多いけど、この形式で書こうと思った理由と、ワトソン&ホームズみたいな話は書く?
A,「なぜ一人称なのか」というと、これはハードボイルドの手法。事件を通して人間としての成長を書きたいので、語り手を探偵にした。太刀洗はホームズ。一応「913」「ロックオンロッカー」は相棒もの?
 いよいよ最後の質問。一番奥の席の女子高生(またはそのコスプレ)の方が選ばれたんですが、マイクの赤外線が届かず壇上に出ることに、なんとマイクを米澤先生からの手渡しである! 裏山C!!
Q,「儚い羊達の祝宴」で「厨娘」という職業が出てきたけど、その本を読むまでその職業は知らなかった。検索しても「儚い羊達の祝宴」しか出てこないし、どうやって知ったのか?
A,実在したのかそうでないのか分からないのだけれど、アオキマサル(?)「ホウソウシュワ(?)」で見て調べた。国書刊行会の「美食」で漢文が掲載されているので、そこから。




 これにて質疑応答は終了。運良く整理券をゲットできた100名が並んでサインをしてもらいます。持ち寄る本は、折れた竜骨が多くて、その後に古典部小市民が並ぶという感じ。インシテミル以外はよく見かけました。米澤先生はジャケットを脱いでいました。
 以下サイン会での短い会話。
俺「講演会楽しかったです!」
よ「ありがとうございます。一人で壇上に上がるというのは前例がないので×××でした」(メモしてなかった……迂闊!)
俺「×××××」(ここもです)
よ「おまたせしました」
俺「ありがとうございます! あの、握手したもらっていいですか?」
よ「はい」
俺「ありがとうございます!」
 これ以前、最後に米澤先生と握手した時は、確か窓際で寒かった覚えがあります。今日の米澤先生の両手で包み込む握手は、温かくてかつ柔らかでした。言葉をメモできなかったのはこの時の握手の感覚を忘れないようしたためです……。許してちょ。
 去年、今年と講演会が開催されているので、二度あることは三度あるのを信じて来年も準備したいですね。あと目撃情報多数の文フリにも。今年は休み取れない……。
 これにてレポートを終わります。

(ボトルネックと初対面の編集さんのくだりを修正しました)
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